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コトノハ読書会レビュー 保坂和志『プレーンソング』

 第二期六回目の授業から、コトノハ読書会の紹介記事を書くことにしたのは、読書会でどんなことを先生と受講生と僕がしゃべってるかってことが参加してない人にも伝わった方がいろんな意味でいいなぁって思ったからで、ちょうど今回から中上紀先生に担当が変わることもあって、これがタイミングだってことで書くことにした。

 コトノハ読書会は、「執筆をする人にも役に立つ」、「日本語の美しさを知る」をコンセプトにレッスンを行っているんだけど、中上先生のお力もあり、それがけっこう達成できたんじゃないかって僕は思ってる。

 2024年1月28日の日曜日に読書会やったんだけど、参加者は受講生の二人と中上紀先生と僕の四人。

 保坂和志のデビュー作『プレーンソング』について、中上先生の講義を交えて、みんなで語り合った。

 『プレーンソング』のあらすじは、中村橋駅の近くに広いアパートの部屋を借りた会社員の男性が、友人を呼んで楽しく日々を暮らし、その中で、野良猫にえさをあげてみたり、豊島園に行って遊んだり、海に行ってボートに乗ったりっていう内容なんだけど、群像劇っぽくて大きな筋みたいなものは特にない。

 最初は、自己紹介した後、中上先生が作者紹介とあらすじとかの基本情報を確認した後、どの部分が上手かったとか、この部分が保坂さんのこだわってる部分なんじゃないかとか、ここの日本語が美しいとか、そんな話をしながら、途中で受講生と僕のコメントを入れながら会は進んだ。

 受講生の二人がもっと話したい感じだったから、次回は受講生の話を聴く時間を増やして、そのフィードバックを中心に授業を進めたいなぁっていうのは思ったんだけど、これは今後、改善点だなぁ。

 中上先生は、作中で「登場人物がチェルノブイリの原発事故の話をさらっとしてて、本当はもっと重たい話のはずだけど、それをあんまり真剣に話さない気楽さとか、本当は書かれていないだけで、いろいろ考えてることはあるんでしょう」っていうこととかを話していた。

 『プレーンソング』の文庫本の二〇ページを引用すると、そこにはこんなことが書かれている。

 ほんの少しのことなのだけど、ゆみ子の声は前よりも低くて太くなっていて、それが聞いているこちら側に安定感のようなものを作り出しているのだと思った。そう思ったのが歩きながらのことで、たとえばコンビニエンス・ストアの中なり部屋に戻ってからではなかったのは、途中にある桜の木の蕾を見て、それが大きくなったと思ったのと同時ん¥だった記憶が残っているからなのだが、それはまあどうでもよくて、三年という時間がゆみ子の声の質に確実に形となっているのと、三年経ってもゆみ子の話の流れ考え方が少しも変わってないと思っているのが、ぼくとゆみ子の付き合いの長さをあらわしていて、それを軽い幸福のように感じている自分というのは、おそらく二十代前半までの自分にはなかった部分なのだろうと思った。

保坂和志 『プレーンソング』より 

 中上先生がこの部分を、「記憶の詳細をたどりながら、ちゃんと桜の蕾のイメージとかを経由して、読者が状況を想起しやすいところがいいですね」って言ってたなぁ。

 受講生のYさんは「時間の経過や季節の移ろいがしっかり伝わるように書かれているのがいいですね」って言ってたし、僕は「話の流れが変わってないのに、声が変わったっていうのは、ゆみ子さんの人柄が出てるなぁって思います。おそらく、実際の年齢や身体的な成長があっても、故郷とか過去のこととかも含めですが、考え方を変えないで生きてくっていうスタンスの人なんでしょう」っていうことを言った。

 他にも、Yは「猫にえさをやりに行く理由の部分で、それってあなたにとってなんなのって聞かれた時に、みえないものとのコミュニケーションって少し謎めいてるふうに書いてるのが素敵ですよね」とか、「三谷さんっていう、ギャンブルが好きな男の人いますけど、この人が作品を盛り上げてるし、起伏作ってるなぁって思います」ってことも話してて、いいコメントだなぁと思ったね。

 Sさんは「コンビニの雰囲気とか、人たちの生き方見てると時代を感じますね」っていうことを話してて、世代の違いはあるなぁとも。

 今回の読書会の最大の山場になったのは、さっきの引用部分のところで、僕が「ゆみ子って電話で声しか登場しないけど、なんだか八〇年代によくいた、イケイケドンドンの女の人が結婚して少し落ち着いたみたいなイメージあるんですよね。この会社員の男性とは電話しかしてない関係なんで、かなり距離感ある友達なんだろうなぁって気がします」って言った後、冗談半分で聞いてくださいって前置きを置いて、「保坂和志がエッセイで、『ひょっこりひょうたん島』っていう人形劇ありましたけど、あれ裏設定でスタート時点で登場人物がみんな死んでるっていうのがあるんだって書いてましたけど、ゆみ子ももしかしたらもう死んでるっていう裏設定で書いてたのかもしれないですね」って言ったら、大ウケで、その流れで、「保坂さんの文章って活き活きしてるっていうか、それは単に文章が長いってことだけじゃなくて、接続詞の使い方っていうか、英語話す時すごく思うんですけど、接続詞使って、話の抑揚つけると会話スムーズに行くこと多いんですよね。その部分が保坂さんの日本語の魅力だなぁって。ジャズのスキャットに似てるんです。bravoとかハラショーって意味ありすぎて、意味ないんですよね。あれに感覚似てますよね」ってことまで話したら、さらに大ウケで、中上先生も「それあると思います」って褒めてくださったのは嬉しかったなぁ、中上健次さんの娘さんであり、プロの作家さんだから。

 明るいリアリズム小説ってそれより前はなかったから、保坂さんの功績はそこも大きい。

 中上先生は「エッセイっぽかったり、全体が会話っぽいのが読みやすくていいですよね」と言っていて、そんな感じで、最後まとめがあって大団円だったんだけど、こんな感じで楽しくわきあいあい読書会やってるので、ぜひお越しください。

 本当は「『プレーンソング』って、グレゴリオ聖歌の生活を祈る音楽から来てるみたいですよ」とか、みんなもっといろいろしゃべってたんだけど紙幅の関係上、これ以上は書けないので、実際に来て、コトノハ読書会の楽しい雰囲気味わっていただけると幸いです。

 あなたの文学ライフ、陽気にサポートいたします。

了 

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